研究概要 |
胃における消化活動は主に幽門部における平滑筋の律動的収縮によって行われるが、その活動の歩調とりは胃体部で産生される。そこで胃体部における平滑筋の自発活動が自律神経によってどのように制御されているのか、電気生理学的に調べた。胃を含む消化管平滑筋の自発活動は、管壁内に分布するカハールの介在細胞(Interstitial cells of Cajal,ICC)において産生されるが、ICCには2種(ICC-MYとICC-IM)あり、幽門部ではICC-MYにおいて産生された歩調とり活動がICC-IMを介して平滑筋へ伝達される。ICC-IMはまた自律神経-平滑筋の興奮伝達にも関与していると考えられている。胃体部ではICC-IMしか分布しておらず、平滑筋で観察される緩電位はICC-IMの活動のみを反映しているので、幽門部で観られる緩電位をslow waveと呼ぶのに対応してslow potentialと呼び、ICC-IMと壁内神経との連関について調べた。胃体部平滑筋はコリン作動性興奮神経と一窒素(NO)作動性抑制神経が主たる制御神経であるので、これらの神経活動と類似の作用がもたらされるアセチルコリン(ACh)とニトロプルシドナトリウム(SNP)により歩調とり活動がどのように変化するか調べたところ、低濃度のAChはslow potentialの頻度を変化させることなく振幅を増加させ、SNPは振幅を変化させることなく頻度の減少をもたらした。高濃度ではいずれの薬物も振幅が減少したが、AChは膜の脱分極を伴いSNPは膜の過分極を伴ったので、電気刺激により膜電位を変化させたところ類似の効果が観られたにので、電位変化に起因した2次的な作用であると考えた。これらの結果から、神経伝達物質は歩調とり細胞であるICC-IMの活動を直接あるいは間接的に変化させていると考えた。
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