研究概要 |
マウス鼻腔上皮のCO_2に対する応答をEOG(嗅電図)で観察することは困難であったので、単離した細胞におけるカルシウム応答をカルシウムイメージング法により観察した。鼻腔上皮を酵素処理により単細胞にしたあとの解析では、頻度は少ないもののCO_2に応答する細胞が観察された。パッチクランプ法による電気生理学的解析は、発現している細胞が少ないせいか、十分解析できるだけのデータが取れず、その電気生理学的性質については未だ不明である。 CO_2受容細胞にはcarbonic anhydrase II(CAII)やguanylyl cyclase D(GC-D)に対する免疫陽性反応が見いだされた。従って、CAIIにより産生される水素イオンまたは重炭酸イオンがこの分子基盤に関わっている可能性が示唆された。水素イオンに応答する受容体遺伝子としてtransient receptor potential vanilloid subtype 1(TRPV1)やacid-sensing ion channel(ASIC)がよく知られている。我々はTRPV1,ASIC1,ASIC2,ASIC3の遺伝子の発現についてin situハイブリダイゼーション法や免疫組織化学により検索したが、すべての遺伝子ともにその発現は粘膜上皮にはみられず、三叉神経節から投射している知覚自由神経終末に局在していた。さらにマウス鼻腔上皮細胞のCO_2に対するカルシウム応答は、TRPV1のブロッカーであるカプサゼピンでは抑制されなかった。ASICのブロッカーとしてはアミロライドがよく知られているが、カルシウムイメージングでは使用できず効果は不明である。以上の結果より、CO_2受容細胞でのCO_2に対するカルシウム応答にTRPV1やASICは関与しないことが明らかとなり、他の水素イオン感受性受容体、あるいは重炭酸イオンによる活性化経路が支持された。
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