これまで申請者は、リゾホスファチジン酸(LPA)が血管内皮細胞におけるシェアストレス応答の感受性を著明に増大する内因性物質であることを主に培養内皮細胞を用いて提唱してきた。昨年度の本研究では、管腔構造を維持した摘出血管標本においてシェアストレス下のLPAの作用を明らかにする目的で、ラット摘出腸間膜動脈の両端をガラスキャピラリーに接続し、栄養液をシンリンジポンプにて定流量還流することにより生体での血流による流れ刺激を再現した実験系を構築して検討を行った。薬理学的な検討の結果、LPAが生理的な濃度範囲においてシェアストレスに依存して腸間膜動脈のフェニレフリンによる収縮反応を増強し、アセチルコリンによる弛緩反応を著明に抑制することを明らかにした。本年度はこのシェアストレス依存的なLPAの作用メカニズムを明らかにすることを目的として、同様の実験系にて薬理学的な検討を行った。LPAの作用にアラキドン酸代謝物による収縮応答がかかわる可能性について、インドメタシンの前処置により検討を行ったところ、20μMインドメタシン前処置によりほぼ完全にLPAの作用が抑制された。この結果は、LPAはシェアストレス依存的に内皮細胞由来のアラキドン酸代謝物産生を増大することにより、フェニレフリンの収縮作用を増強し、アセチルコリンの弛緩反応を抑制することを示唆するものである。今後はLPAの作用にかかわるアラキドン酸代謝物を特定するための検討を行うとともに、異なる種類の血管系を用いて同様の検討を行う予定である。
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