申請者はリゾホスファチジン酸(LPA)が血管内皮細胞におけるシェアストレス応答の感受性を著明に増大する内因性物質であることを報告してきた。本研究では平成22年度までにLPAが生理的な濃度範囲において管腔構造を保ったラット腸間膜動脈においてシェアストレスに依存してフェニレフリンの収縮反応の増強とアセチルコリン(ACh)による弛緩反応の著明な抑制引き起こし、そのメカニズムとしてアラキドン酸代謝物の産生増加が関与することを明らかにした。23年度ではさらに詳細なメカニズム検討を行った。実験系は22年度に引き続き、摘出腸間膜動脈標本の両端にガラスキャピラリーに接続して定流量還流することにより流れ刺激を負荷する微小灌流系を用い、生じた収縮弛緩反応を蛍光顕微鏡でデジタル画像として記録した。検討の結果、LPAの作用がトロンボキサンA_2受容体拮抗薬SQ29548(1μM)前処置により抑制されたこと、トロンボキサンA_2アナログのU46619が用量依存的(0.01-1.0μM)にAChの弛緩反応を抑制したことから、シェアストレス依存的なLPAによるACh誘発弛緩反応に対する抑制作用にトロンボキサンA_2を介する情報伝達系が関与することが明らかとなった。この作用はLPAの正常血漿濃度域に相当する30-300 nMで生じることから、高いシェアストレスが負荷される血管部位では容易に起こりうると考えられた。
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