申請者はリゾホスファチジン酸(LPA)が血管内皮細胞におけるシェアストレス応答の感受性を著明に増大する内因性物質であることを報告してきた。そこで本研究では、生理的な環境下でLPAがシェアストレス存在下、血管収縮弛緩反応にどのような影響を与えるかについて明らかにするために、管腔構造を保った摘出細血管のシェアストレス存在下での収縮弛緩応答に対するLPAの作用を検討した。ラット摘出腸間膜動脈の両端をガラスキャピラリーに接続し、栄養液をシンリンジポンプにて定流量還流することにより生体での血流による流れ刺激を再現した。このときの血管にかかる圧力をモニターし、約80 mmHgとした。この微小灌流系を画像解析装置を装備した蛍光顕微鏡のステージ上にセットし、収縮弛緩の様子をデジタル画像として記録した。シェアストレス存在下、0.3μM LPAの適用では血管は応答しなかったが、10μM phenilephrine(PE)による収縮反応を有意に増大させた。さらに、PE誘発収縮後の10μM acetylcholine(Ach)による弛緩反応をほぼ完全に抑制した。このLPAの作用は0.03-0.3μMのLPA濃度領域およびシェアストレス強度(10-70 dyne/cm^2)に依存して増大した。血管内皮細胞を除去した標本では、このLPAの作用は認められなかった。また、LPA受容体拮抗薬のKi16425によりほぼ完全に抑制された。LPAの作用にアラキドン酸代謝物による収縮応答がかかわる可能性について、インドメタシンの前処置により検討を行ったところ、20μMインドメタシン前処置によりほぼ完全にLPAの作用が抑制された。さらに、LPAの作用がトロンボキサンA_2受容体拮抗薬SQ29548(1μM)前処置により抑制されたこと、トロンボキサンA_2アナログのU46619が用量依存的(0.01-1.0μM)にAChの弛緩反応を抑制したことから、シェアストレス依存的なLPAによるACh誘発弛緩反応に対する抑制作用にトロンボキサンA2を介する情報伝達系が関与することが明らかとなった。これらの作用はLPAの正常血漿濃度域に相当する30-300 nMで生じることから、高いシェアストレスが負荷される血管部位では容易に起こりうると考えられた。
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