本研究は初期にはイオンチャネルのダイナミックスについて原子レベルの詳細を明らかにするため、全原子力場を用いる分子動力学シミュレーションを脂質2分子膜内で実施し、分子内塩橋形成など電位依存性ゲーティングの理解に資する成果を挙げた。一方、多様なイオンチャネルの構造機能連関について理解を深める上で、脂質分子の挙動、局在、自発的曲率の自由エネルギーへの影響の理解が必要であるとの判断に到達した。脂質膜融合における脂質分子及びペプチド分子のダイナミックス解析を行い、膜融合活性を持つインフルエンザウイルスHAペプチドが正曲率を与えることを見いだし、さらにパルミチン酸を含む脂質膜において非ラメラ構造を誘導する傾向があることを示した。さらに、少なくともこの脂質膜において、二つのbilayerを融合させる系をシミュレーション形で確立した。さらに、近年、脂質分子生化学・細胞生物学で注目される脂質ラフトの形成機構や細胞内での脂質分子のソーティングのメカニズムを解明するため、低いミセル化能をもつ組成の脂質混合物系を、曲率を有するhemifusionを模倣した脂質膜系でシミュレーションする系を開発した。粗視化モデルの系を利用することにより、飽和、不飽和脂肪酸、並びにコレステロールの多様な組合せによるシミュレーションを実施し、脂質ラフト様の固くかつ高いオーダー指数を有するLoドメインの形成と、低いオーダー指数を有するLoドメインの分離を再現した。さらにhemifusionによって新たに形成された、大きな負の曲率を有するmonolayerでは、Loドメインが排除される傾向があることを示した。
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