最終年度の本年は水チャネルAQP11が発現している組織ごとにAQP11の発現動態を検討した。AQP11は胸腺では皮質での発現が強く見られ、リンパ球ではなく胸腺細胞に発現していた。AQP11ノックアウトマウスでは胸腺の発育障害がみられた。AQP11はリンパ球の成熟に関与している可能性があり、免疫への役割に興味がもたれる。精巣ではセルトリ細胞にAQP11は発現しており、テストステロン筋肉注射によってAQP11mRNAが低下することがあきらかになった。これはAQP11が精子形成にホルモン依存的に関与していることを示唆しており興味深い。腎臓ではアミノグリコシド腎障害のマウスモデルにおいてAQP11mRNAの減少がみられた。一方血清のナトリウム濃度を変えることではAQP11mRNAの発現量に変化はみられなかった。通常細胞内に発現しているAQP11が浸透圧の変化で細胞膜に発現変化していくことも観察されなかった。肝臓ではAQP11は肝実質細胞全体に弱い発現と中心静脈付近の肝実質細胞に比較的強い発現が認められた。アセトアミノフェン急性肝障害モデルを作成して中心静脈付近の肝細胞障害をおこすとAQP11mRNAの発現低下がみられた。また3日間絶食にすると肝臓のAQP11mRNAの発現の低下がみられた。これはAQP11が消化管からの吸収物質代謝に関与していて消化管ホルモンによって制御されていることを示唆している。脳のAQP11は脈絡叢上皮や血管内皮に発現しており、脳浮腫との関係に興味がもたれる。そこで、脳浮腫治療に臨床的によく用いられるマニトールの腹腔内投与の脳AQP11mRNA発現への影響についてさらに検討した。血管内皮細胞や脈絡叢上皮細胞の細胞内浸透圧が上昇していると考えられるがAQP11mRNAの発現は減少しており、AQP11を増加させることでマニトールの薬理的な効果を増強させることができる可能性があり、この結果はアメリカ腎臓学会で発表した。
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