扁桃体は、報酬や嫌悪の意味合いをもつさまざまな刺激に反応し、攻撃、防御、逃避といった情動反応や情動の変化にともなう自律神経系の反応にも密接に関係している。レム睡眠中には、外因性の情動性入力がなくても、覚醒中の情動反応を思わせるような自律神経系の大きな変動が観察される。この反応は、レム睡眠中の夢見を反映しているとも考えられる。ヒトでは、非侵襲的な脳機能測定法により、レム睡眠中に扁桃体の活動が上昇することが報告されている。したがって扁桃体では、レム睡眠中に外因性の情動刺激なしに、覚醒時の情動反応を引き起こす機構と同様の機構が働いていると考えられる。本研究では、レム睡眠中の情動変化のメカニズムの解明を目的とし、昨年度から引き続き、レム睡眠中の血圧変動に関与する扁桃体ニューロンについての解析を進めた。また、嫌悪刺激(電気ショック)を無条件刺激とし、ある周波数の音を条件刺激として、条件刺激に対する血圧、心拍、扁桃体ニューロンの反応を覚醒時とレム睡眠時で比較した。 頭部に装着したプレートで、ラットを脳定位装置に固定し、脳波、筋活動から睡眠・覚醒状態を判定し、下行大動脈圧に刺入した圧トランスデューサーから血圧(心拍数)を記録し、ガラス電極により扁桃体のニューロン活動を記録した。 扁桃体ニューロンの36%は、レム睡眠中に最も高い活動を示すニューロン(REM activeニューロン)であった。そのうちの約1/3は、レム睡眠中の血圧変動と高い相関をもって活動変化を示した。それらの変化は、常に血圧の変動に先行していた。このようなニューロンは、主に扁桃体中心核、基底外側核から記録された。条件刺激音に対して、レム睡眠時にも、覚醒時同様の血圧心拍の上昇がみられた。扁桃体のニューロンの約40%は、覚醒時に条件刺激音に対して(血圧上昇をともなって)反応した。これらのニューロンは、レム睡眠時にも、同じ条件刺激音に反応した。このニューロンのいくつかは、レム睡眠中の血圧変動と高い相関をもつタイプのニューロンであり、レム睡眠中に条件刺激音なしでも、血圧変動とともに、活動上昇がみられた。以上の結果から、扁桃体のレム睡眠中の活動は、覚醒時の状況に依存する、といえる。
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