本研究の目的は、第三脳室腹側前部(AV3V)に存在するアミノ酸受容体が、様々な状況の下、ADH分泌等の自律機能調節に働く事を解明し、その受容体機能が脳で産生される神経ステロイドによる修飾を受けるのかどうかと言う問題を検討する事だった。研究は交付申請書の記載に則り進められ、次の結果を得た。(1)大腿動脈から約28%の血液を除去すると、血圧が低下し、血漿ADH、グルコース(Glc)、AngiotensinII(AII)の濃度や浸透圧が増大した。出血操作前にGABA(A)受容体(-R)のアゴニスト(Ago)であるmuscimol(Mus)をAV3Vに注入すると、ADHとGlcの反応が抑制され、AIIの反応は逆に増加した。Musの脳室内注入ではこのような効果は見られなかった。(2)偽出血下では、AV3VにMusを注入しても何の反応も生じなかった。(3)基礎状態でGABA(A)-Rアンタゴニスト(Ant)であるbicucullineをAV3Vに注入すると、血漿ADH、Glc、浸透圧が上昇し、血圧、心拍数が増加した。これらの反応は全て、Musの前投与で消滅した。Glu-R阻害薬の前投与でも、血圧を除く全反応が抑制された。(4)上記(1)における出血性の血漿ADH上昇は、AV3Vにグルタミン酸(Glu)-R阻害薬を注入しても抑制された。(5)出血操作の前にGABA(B)-RのAgoであるbaclofen(Bac)をAV3V注入すると、出血性血圧低下が弱まったが、ADHとGlcの増加は著しく増強された。偽出血下でAV3VにBacを注入した場合は、昇圧・頻脈反応が起こり、血漿ADHやGlc濃度は変わらなかった。(6)基礎状態で神経ステロイド(PREGS)をAV3Vに注入しても、血漿ADH、血圧、心拍数は、溶媒注入群の値と有意に変わらなかった。以上の結果から、(1)血液量減少はAV3VのGABA(A)作動性神経を抑制し、Glu神経を興奮させて、ADH分泌を高めること、(2)AV3VのGABA(A)-Rは、神経ステロイドによる修飾を受け難いこと等が考えられる。
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