本研究の目的は、第三脳室腹側前部(AV3V)に分布するアミノ酸受容体(R)が、ADH分泌その他の自律機能の調節に生理的に働く事を実証し、その機能が神経ステロイド(NS)を始めとする作用因子とどの様に関連するのか、と言う問題を追究する事だった。申請書に記した実験から、以下の結果を得た。(1)ラットの大腿動脈から血液を除去しつつ、大腿静脈に高張NaClを投与し、低容量刺激と高浸透圧刺激(二大ADH放出因子)を同時に与えた。血漿浸透圧(Osm)、Na+と共にADH、グルコース(Glc)が増加したが、血圧(BP)やangiotensinII(AII)は変化しなかった。AV3VにGABA(A)受容体(R)agonist(Ago)のmuscimol(Mus)を局所注入すると、刺激負荷後、降圧傾向が生じ、Osm、Na+、AIIが増大した。しかしADH増加は強く抑制され、Glc反応は消失した。(2)刺激非付加群では、MusのAV3V注入はADHその他の因子を変えなかった。(3)両刺激によるADH上昇はグルタミン酸(Glu)-RantagonistのAV3V注入でも抑制された。(4)NSをAV3Vに注入しても、ADH、BP、心拍数、Osm、電解質は、溶媒注入群の値と変わらなかった。(5)AV3VにGABA(A)Agoのbicucullineを注入するとBP、HRが上昇し、ADH、Glc、Osmが増加した。これらの反応はNSのAV3V注入によって変化しなかった。現今及び従来の結果に基づき、(1)高浸透圧・低容量情報の双方がAV3VのGABA(A)機構を抑制し、その結果Glu機構の活性化が生じてADH分泌は増強すること、(2)ADH分泌その他の自律機能の発現に働くAV3VのGABA(A)機構は、NSによる活性制御を受け難いこと、等が推察される。
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