研究概要 |
本研究の主な目的は、第三脳室腹側前部(AV3V)に存在し、ADH分泌や心血管系などの自律機能調節に携わるアミノ酸神経の作用が、当該領域で産生される神経ステロイド(NS)によってどんな修飾を受けるのかと言う問題を解明することだった。実験は、ラットを用いて申請書に記した計画に従って進め、次の結果を得た。(1)GABAは脳の中心的な抑制性神経伝達物質である。そのA受容体(A-Rs)は、ヘテロ5量体の糖蛋白質であり、GABAが結合するとClイオンの透過性が高まり、シナプス後神経の興奮性の減衰することが知られている。AV3VのGABA神経は、基礎状態で緊張的に活性化している。従って、ラットのAV3VにA-Rsの阻害薬、Bicを局所注入すると、神経が脱抑制されて血漿ADH,浸透圧、グルコース、血圧、心拍数などが顕著に増大する。しかし、(2)A-Rsを構成するステロイド感受性サブユニットの機能を抑えるNS、PREGSをAV3Vに与えても上記測定因子は基礎状態で何の変化も受けない。従って、基礎状態におけるA-Rsの活性化に、内因性に生じたNSが関与しているとは考え難い。(3)A-Rsのステロイド感受性サブエニットに作用し、Cl透過性を高めるNs、Alloを前投与した後、BicをAV3Vに注入した。しかし、上に述べたBicの作用は、Alloの前投与によって変化しなかった。次に、(4)AV3VにシトクロムP450阻害薬であるAMGLTを局所投与し、組織でのNS産生を抑制した。しかし、(1)高張NaClの静脈内注入に伴う浸透圧性のADH分泌や、(2)動脈血除去による血液量/血圧減少性のADH分泌は有意な影響を受けなかった。以上の観察から、ADH分泌その他の自律性反応に重要な意義をもつAV3VのGABA(A)-Rsは、NSによる急性的な機能修飾を受け難いこと、換言すればNS感受性の乏しいサブユニットから成ること、が推察される。
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