研究概要 |
肥満は、糖尿病などのメタボリックシンドロームの発症原因である。肥満を防ぐためには、適度な運動や食事(特に脂質)の制限が効果的であるが、ストレス社会の現代ではこれらを実行できている人々は少ない。申請者らは、食事制限以外の栄養法による抗肥満について研究を行ってきた(Hirasaka et al.Diabetes,2007)。その研究を発展させるため、本研究は抗肥満効果の高い中鎖脂肪酸の新規作用を中鎖脂肪酸の骨格筋特異的な受容体の同定を中心に解析した。中鎖脂肪酸は、マウスC2C12筋管細胞のUCP3の発現を増大するだけでなく、PDK4(Pyruvate dehydrogenase kinase 4)の発現を特異的に上昇させることを発見した。中鎖脂肪酸によるPDK4遺伝子発現の上昇は、長鎖脂肪酸には見られず、中鎖脂肪酸固有のものであった。PDK4は糖代謝優位を脂肪代謝優位に変換させるエネルギー代謝調節の鍵酵素である。中鎖脂肪酸は、肝臓で速やかに代謝されるためだけでなく、骨格筋での脂肪代謝も活性化しているので肥満しにくいのではないかと考えられる。生体内の脂肪酸の酸化を制御する因子として、Peroxisome Proliferator-Activated Receporα,δ(PPARα,δ)がある。PPARα,δは、オレイン酸などの長鎖脂肪酸をリガンドとしている。リガンドが結合することで核移行して脂肪酸代謝に関与する因子の発現を増大させる核内受容体の1つであり、その標的遺伝子の中のUCP3やPDK4の脂肪酸酸化を増大させうると知られている。それぞれのPPARのアンタゴニストを用いた研究により、オレイン酸(C18:1)と同様にカプリン酸(C10:0)もPPARδを介してPDK4の発現を増大させている可能性を見出した。さらに、中鎖脂肪酸と結合する受容体を検討したところ脂肪酸輸送体であるFATP1を見出した。実際に、FATP1を強発現した細胞は14Cでラベルした中鎖脂肪酸(C10:0)の取り込み能が増大した。以上の結果は骨格筋において、FATP1が中鎖脂肪酸の受容体となり、細胞内に取り込まれ、その後中鎖脂肪酸は核内でPPARδのリガンドとしてUCP3の発現調節に関わっていることが示唆された。
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