摂食調節の神経回路の研究において、視床下部のヒスタミンH1受容体発現ニューロンに注目した。視床下部にはH1受容体が豊富に存在し、摂食抑制に関与すると考えられている。H1受容体の分布をin situ hybridization(ISH)法により調べ視床下部室傍核に強く発現することを確認した。この部位は摂食に関する液性情報、神経性情報が集積し、摂食抑制の1つのセンターであると考えられる。この部位に存在するH1受容体発現ニューロンを、イムノトキシンをマウス視床下部室傍核に微量注入することにより選択的に死滅させた。H1受容体ニューロンの死滅はISH法により確認した。この操作をおこなったマウスは、コントロール群に比べて摂食量が30-40%増加し、体重も60日後で約30%増となった。この結果は、室傍核のH1受容体発現ニューロンが摂食抑制に深く関わっていることを示している。すなわち当該ニューロンは本来摂食抑制作用を持っているが、そのニューロンが死滅することで摂食抑制作用が消滅し、摂食量が増加したと考えられる。このニューロンは、H1受容体を発現していることがわかっているが、それ以外の性質は未だ全くわかっていない新規なニューロンであると考えられる。そこでこのニューロンの性質を調べるため、H1受容体発現細胞特異的にCre recombinaseを発現する遺伝子改変マウスの作製に着手し、現在、完成の最終段階にある。このマウスを利用することで、H1受容体ニューロンに発現する各種の受容体の種類、本ニューロンの投射先のニューロンを特定する研究が可能になり、摂食調節回路の中で本ニューロンの占める位置を明らかにすることが可能となる。本研究は、H1受容体ニューロンの活動を調節する薬物を見出すことで、摂食抑制薬の開発に結びつき、過食による肥満症、糖尿病の予防に貢献できると考えられる。
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