研究課題
本年度は、ヒト女性脳が母性脳を獲得するメカニズムの解明を目的とし、研究1.育児経験によって母性脳を獲得できるのか、研究2.妊娠・出産・授乳の過程で変動する種々のホルモンが母性脳の獲得にどのような役割を果たしているか、について中心的に研究を行った。実験は、乳児あるいは成人の表情画像から、その情動を識別する課題を実施し、その間の脳活動を近赤外分光法(NIRS)により測定した。また、測定した脳活動の変化について実験群間の比較を行った。まず、研究1では、(1)母親と妊娠経験がなく、充分な育児経験を有する(2)保育士、それ以外の(3)未産婦との3群間の比較を行った。その結果、母親では右前頭前野腹側領域に有意な活動性の増加が見られ、その活動性は保育士、未産婦に比べ、有意な増加を示した。したがって、育児経験のみでは母性脳の獲得に不十分である可能性が示唆された。次に、研究2では、(1)妊娠30週、(2)産後5日、(3)産後2ヶ月、(4)産後12ヶ月の母親(すべて初産婦)を対象に実験を行った。現在、(3)、(4)は充分なデータを取り終え、解析済みであるが(1)、(2)は実験を継続中である。ここまでに(4)の結果から、これまでに実施した母親集団における報告と同様に、右前頭前野腹側領域の活動性に増加が見られ、母性脳の特徴の再現性が示唆された。(3)の結果では、同領域の活動性がほとんど見られなかった。このことから、母親になったとしても産後2ヶ月では母性脳の特徴を呈さい可能性が示唆された。今後、この可能性にさらなる実証的データを加えるべく、(1)、(2)の実験を継続し、女性はいつの時点で母性脳を獲得するかを明らかにする。以上より、女性は育児経験のみでは母性脳を獲得し得ず、妊娠・出産を経る必要がある可能性、妊娠・出産を経て母親になったとしても産後2ヶ月目まででは充分でない可能性、が示唆された。次年度はこの原因に迫ると共に、男性における父性脳の検討を進める。
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