平成21~22年度において、マクロファージ様に分化させたヒト前骨髄球性白血病細胞株HL-60細胞を牛乳カゼインまたはそのトリプシン分解物で刺激した際の一過的な細胞内カルシウム濃度の上昇がGiタンパク質を介して起こることを見出し、これがαs1カゼイン由来の新規の血球細胞活性化ペプチドによるものであることを明らかにした。さらに、このペプチドに対する分化させたHL-60細胞の応答が、オピオイド受容体を介したものではないことも明らかにしている。 本年度は、この新規血球細胞活性化ペプチドによるHL-60細胞の活性化が、オピオイド受容体のみならず、補体C3aや細菌由来の走化性ペプチドfMLPなど、牛乳カゼイン中に類似配列もしくは類似の生理活性を持つ可能性が報告されているものの受容体を介して起こるのではないことを確認した。本ペプチドによる細胞内カルシウム応答の惹起が、Giタンパク質を介した未だ明らかにされていない機序を介して引き起こされている可能性が示唆された。 また、ヒト大腸癌細胞株CACO-2細胞を本新規血球細胞活性化ペプチドで刺激した場合には細胞内カルシウム応答を引き起こさないことから、本ペプチドが腸管上皮細胞には作用しないことが示唆された。このことから、ヒトに摂取された牛乳カゼインが消化されることにより消化管内で生じた本血球細胞活性化ペプチドが、腸管に存在する免疫担当細胞に選択的に作用している可能性が考えられた。
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