本年度は光感受性網膜神経節細胞における双極細胞からのシナプス入力の組織学的検索および光感受性網膜神経節細胞の分光波長感度特性について生理学的検討を行った。その結果、従来報告されている杆体双極細胞に加えて錐体双極細胞からもシナプス入力が存在することを免疫組織化学的に明らかにした。また、光感受性網膜神経節細胞の分光波長感度特性に関して、転写因子c-Fosの発現を指標にして実験的に求めた。その結果、500nm付近の波長をピークとして、比較的短波長側に限局した狭いバンド幅を有していることが明らかとなった。この分光波長感度特性と太陽光の分光波長特性を比較したところ、相当部分の波長をカバーしていたことから、光感受性網膜神経節細胞が太陽光を効率的に感受し、効率的に概日リズムの光同調に寄与していることがわかった。一方、外側膝状体背側核に軸索を投射する非光感受性網膜神経節細胞の分光波長感度特性は短波長から長波長帯域にかけて広いバンド幅を有していることを見出した。この結果は、外側膝状体背側核-視覚皮質系の視覚情報処理に関わる網膜神経節細胞は、外界の視対象の形態・運動を効率よく認識するためにできる限り幅広い色情報を中枢に伝えるよう機能していると考えられた。 光感受性網膜神経節細胞の光受容メカニズムについて詳細な研究を行うべく、パッチクランプおよびカルシウムイメージングを記録指標としたコンピュータ制御微細画像提示装置の作製を行った。本装置はステージ固定型の顕微鏡の光路を利用して、網膜組織片に直接画像を提示し、心理物理学的計測を行えるよう工夫したものである。なお、現在、目下ソフトウエアの開発を行っているところである。次年度以降本装置を利用して、光感受性網膜神経節細胞における光受容特性に関わる薬理学的実験を実施する予定である。
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