これまでに、視床下部視索前野の吻側端に存在する終板器官周囲部において、ノルアドレナリンは一酸化窒素合成酵素を活性化し、それによって放出された一酸化窒素を介して低体温および解熱反応を誘起する可能性を指摘してきた。本年度はこれらの反応が低酸素環境下での低体温反応誘起に関わる可能性をウレタン・クロラロース麻酔し、dツボクラリンを用いて非動化した人工呼吸下のラットを用いて調べた。10%酸素90%窒素の混合ガスを5分間吸引させるとその後に熱放散の促進、熱産生の抑制、徐脈、低体温反応が起きた。頸動脈洞神経を両側切断するとこれらの反応は消失したので、頚動脈洞の酸素受容器を介した反応であることが推定された。終板器官周囲部に多連微小ピペットを用いてα_1アドレナリン受容体拮抗薬であるプラゾシンを前投与しておくと低酸素刺激による反応は大きく減弱した。また、一酸化窒素合成酵素阻害薬であるL-NMMAをこの部位に前投与しておいても低酸素に対する反応が阻止され、L-NMMAの異性体であり、一酸化窒素合成阻害活性のないD-NMMAを前投与した場合には反応に影響しなかった。これらの結果から、終板器官周囲のノルアドレナリンと一酸化窒素が低酸素環境下での低体温反応の少なくとも一部を担っていることが示唆された。
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