プロスタグランジンE2 (PGE2)感受性の発熱誘起部位である視床下部の終板器官周囲部にノルアドレナリンや一酸化窒素放出薬を注入すると熱放散反応がおきること、これらが低酸素環境下での体温低下をおこす機構の一部であることをこれまでに報告した。本年度はこの部位から外側視索前野へのグルタミン酸作動性投射が低酸素による低体温反応の神経機構の一部である可能性についてウレタン・クロラロース麻酔下のラットを用いて検証した。 外側視束前野内の吻側から中央部にかけての広い範囲で5nmolグルタミン酸を偏側注入すると皮膚温度上昇と体温低下反応がおきた。この領域に存在する常時不活発なニューロンがグルタミン酸によって興奮すると皮膚交感神経活動が抑制されると考えられた。この領域の中心部にGABAを注入すると熱産生増加を伴った体温上昇反応がおきた。この部位には常時活動することで熱産生を抑制しているニューロンが存在し、これらがGABAにより抑制されると脱抑制により熱産生と体温上昇がおきたと考えられた。 グルタミン酸受容体の拮抗薬であるキヌレン酸を外側視索前野の両側に前投与しておくと、10%酸素を含有した窒素ガス呼吸による低酸素刺激によって誘起される熱放散と体温低下の反応が大きく減弱した。同様に終板器官周囲部にノルアドレナリンや一酸化窒素放出薬を注入して誘起される熱放散と体温低下の反応も大きく減弱した。したがって、低酸素環境による体温低下反応の脳機構として終板器官周囲部のノルアドレナリン感受性細胞から放出される一酸化窒素感受性ニューロンが外側視索前野にグルタミン酸を伝達物質として神経連絡をしていることが重要である可能性が示唆された。
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