研究概要 |
活性化型のG proteinαqを一過性に強発現した、心肥大・心不全誘発トランスジェニックマウス(Gαq TG)は、高頻度に心室性期外収縮を発生し、心室頻拍も誘発した。TRPCチャネル阻害薬であるSK & F96365は、この心不全下で誘発された心室性期外収縮の数と心室頻拍を有意に抑制した。またヂアシルグリセロール類似物である1-oleoyl-2-acyl-sn-glycerol(OAG)は、正常マウス(WT)と比較してGαq TGマウスのランゲンドルフ心において、有意に心室性期外収縮の数を増加させ、心室性頻拍を誘発させた。このOAGの効果は、SK & F96365の投与により抑制された。単一心筋のパッチクランプにおいてGαq TGマウスの心室筋は、早期後脱分極によるtriggered activityを誘発した。このtriggered activityの誘発は、SK & F96365の投与により抑制された。この結果は、心不全に伴う心室頻拍発生のトリガーに, TRPCチャネルの関与を示唆している。K-ATPチャネル開口薬のニコランジルの慢性投与は、32週齢のGαq TGマウスにおいて心不全を改善し、心室性期外収縮の発生頻度も有意に減少させたが、心室筋の両タンパク(TRPC3とTRPC6)の発現量増加を改善させることはできなかった。また、ニコランジル急性投与は、Gαq TGマウス心室筋の活動電位幅を有意に短縮した。以上の結果から、心不全に伴う心室頻拍のトリガー発生には、心室筋のTRPC3, 6タンパク発現量の増加が重要な役割を持っているが、TRPC3, 6タンパク発現量の増加だけでは、心室頻拍のトリガーは発生しないことが示唆された。左心室拡張期圧を上昇させた時の心室性期外収縮の数は、WTマウスと比較してGαq TGマウスのランゲンドルフ心で有意に増加していた。この左心室拡張期圧の上昇による心室性期外収縮の発生頻度の増加は、SK & F96365の投与によって有意に減少した。この結果から、心不全に伴う左室拡張末期圧の上昇は心室頻拍のトリガー発生(心室性期外収縮の発生)を増加させ、これにはTRPCチャネルが関与していることが示唆された。本研究から、新規抗不整脈薬開発としてのTRPCチャネル阻害薬の可能性について新しい知見が得られた。
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