これまでに、典型的なイオンチャネルとして働くα7ニコチン受容体は脳ミクログリアではイオン透過性を示さず、ホスホリパーゼCなどの代謝型シグナルを介して細胞内カルシウムストアからカルシウムを放出させることを報告してきた。また、ミクログリアのα7ニコチン受容体の活性化は、リポポリサッカライドなどの強力な炎症誘発物質による炎症性サイトカインの産生を抑制することから、α7ニコチン受容体は抗炎症作用を介して神経を保護する重要な役割を担う可能性を示してきた。しかし、ミクログリアにおけるニコチン刺激によるカルシウム反応は一過性で小さく、細胞によっても反応の大きさは異なっていた。一方、マウス腹腔マクロファージは脳ミクログリアとよく似た性質を持ち、同様にニコチン刺激に反応して細胞内カルシウム濃度を上昇させた。炎症時には細胞外のpHは低下することが知られていることから、そのpH依存性を検討したところ、pH7.2ではニコチンの反応は弱いが、pH5.8の酸性条件下では反応は増強された。さらに、過酸化水素存在下で酸化ストレスを与えた状態でも、ニコチンによるカルシウム反応の増大が認められた。つまり、ミクログリアやマクロファージに発現するα7ニコチン受容体は炎症時の酸性化状態や酸化ストレス状態下においてその機能が亢進する可能性が示された。従って、α7ニコチン受容体は通常は弱い反応しか引き起こさないが、炎症や酸化ストレスを受けた際に機能を亢進させ、過度の炎症から生体を守る仕組みとして重要な役割を果たす可能性が考えられた。これらの結果はα7ニコチン受容体が脳内炎症治療に向けた創薬ターゲットとなりうる可能性をさらに裏付けるものとして期待される。
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