1. 従来の副交感神経系終末から放出される神経由来のACh以外で、近年解明されつつある非神経性ACh産生系を、今度は心筋細胞自身が持っているかを検討してきたが、この系がどのような調節メカニズムをもつのか、その生物学的意義は何であるかを検討した。そして、これまでに報告されてこなかった、心筋細胞内ACh産生系の存在の可能性についてはじめて明らかにした。 2. 心筋細胞内ACh産生系は、AChやpilocarpineなどmuscarinic receptorを介して、positive feedback機構により活性化されることが明らかとなった。すなわち、ACh合成酵素の遺伝子発現・蛋白発現・心筋内産生ACh量のいずれもが、AChやpilocarpineによって増加し、一方、atropineによって減少することが判明した。 3. 心筋細胞内ACh産生系の生物学的意義は、ミトコンドリア機能を一部抑制し、結果として心筋細胞の酸素消費量に対して恒常的にブレーキをかける役割を担っていることが明らかとなった。VHL蛋白欠失細胞とコントロール細胞の両者を用いたcDNAサブトラクション法により、HIF-1α蛋白レベルが恒常的に増加しているVHL欠失細胞においては、ミトコンドリアまたはエネルギー代謝を修飾する遺伝子群が高発現していることが明らかとなり、その中で我々は、核で発現する新規の遺伝子を同定した。この遺伝子は、ミトコンドリアDNAの転写因子mitochondrial transcription factor A (TFAM)自体の転写を抑制し、酸素消費量を抑制するという機構を持つことが明らかになった。
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