Differentiation-inducing factor(DIF:細胞性粘菌分化誘導因子)は細胞性粘菌が分泌する化学物質であるが、哺乳類の腫瘍細胞にも増殖抑制作用を持つことが報告されている。本研究は腫瘍細胞に対し強力な増殖抑制作用を持つDIF-1またはDIF様物質の抗悪性腫瘍薬としての臨床応用を目指すものである。この中で本申請課題では、DIF-1の生体内での動態を検討し、さらにそこからDIF-1を水溶性でかつ生体内で適度に分解を受けやすいプロドラッグ化するなどの新たな化学物質の検討・合成を行う。本年度はこのうち、以下の点についての検討を行った。 1)マウスへのDIFの投薬実験を行い、その血中濃度測定を行った。水溶性の低い薬剤の経口投与法として一般的な、薬剤をメチルセルロースに懸濁しマウスに経口投与を行う方法では、急激な血中濃度上昇を示し、濃度の維持が困難なことが明らかとなった。そこで、DIFが脂溶性の高い物質であることに着目し、大豆油に溶かして経口投与を行ったところ、緩やかな血中濃度の上昇と良好な血中濃度維持を示した。この結果に基づいて、DIFのモデル動物への投与はoorn oilに溶かして経口投与を行う予定である。 2)ヌードマウスの背部皮下にヒト子宮頚がん由来細胞株HeLaをマトリゲル(基底膜再構成基質)と混入して注入し、腫瘍を形成させた。このマウスに大豆油に溶解したDIF-1を経口にて30日間投与を行ったところ、コントロール群と比較して腫瘍の増大を抑えることができた。この作用の分子メカニズムについてはまだ解析を行っていないが、今後解析を行い今まで培養細胞で得られたデータと比較検討し、DIFの生体内での作用機序について明らかにする予定である。
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