研究代表者らは最近、生体内での活性酸素と一酸化窒素(NO)の生成によりニトロ化環状ヌクレオチドである8-nitro-cGMPが生成し、酸化ストレス適応応答の2次メッセンジャーとして機能していることを明らかにした。さらに、8-nitro-cGMPがユニークな蛋白質翻訳後修飾(S-グアニル化)を起こすことを明らかにし、転写因子Nrf2の活性調節因子であるKeap1が、生体内においてS-グアニル化を受ける主要な蛋白質であることを見出した。本研究では、8-nitro-cGMPによるKeap1/Nrf2転写系の制御機構を明らかにし、酸化ストレス適応応答の分子基盤を解明することを目的とする。これまでに、8-nitro-cGMPの特異的かつ高感度な定量法(安定同位体希釈法-質量分析法)を確立し、誘導型NO合成酵素の発現誘導刺激(リポ多糖と炎症性サイトカイン)を行ったC6ラットグリオーマ細胞において、40microMを超える8-nitro-cGMPが生成することを明らかにした。さらに、この8-nitro-cGMPの生成に伴いKeap1のS-グアニル化が著明に増加し、Nrf2の活性化とヘムオキシゲナーゼ-1などの抗酸化酵素群の発現増加が観察された。本年度は、8-nitro-cGMPの生成メカニズムについて活性酸素産生機構に関するさらに詳細な解析を行った。その結果、上記の刺激をした細胞において、NADPHオキシダーゼとミトコンドリアに由来する活性酸素が8-nitro-cGMPの生成に重要な役割を果たしていることが明らかになった。これらのことから、8-nitro-cGMPは、活性酸素とNOの2次メッセンジャーとして、Keap1のS-グアニル化を介した酸化ストレスに対する適応応答において重要な役割を果たしていることが示された。
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