本研究の目的は、糖尿病における腎臓内部の微小血管の収縮応答性変化を検出し、そのメカニズムを解明することである。平成24年度の当該研究において、炎症性の生理活性物質である thromboxane A2 誘発の腎臓内部血管(葉間動脈: ILA)収縮が、細胞外糖濃度上昇により影響を受けることを見いだした。しかしながら、血管運動を調節する自律神経系のシグナルが ILA 収縮に影響するかについては不明のままであった。平成25年度においては、交感神経興奮時に活性化される adrenaline receptor (AR) を介した収縮応答について検討を行い、2型糖尿病モデルマウスである ob/ob mouse における機能異常を初めて見いだした。今年度の当該研究で見いだされた新たな知見は以下の通りである。(1) 糖尿病病態下の AR を介した腎内部の微小血管収縮を有意に亢進する。(2) 細胞外糖濃度上昇による収縮反応亢進は、正常マウスではほとんど認められず、糖尿病モデルでは顕著であった。これらの知見から、慢性的な高血糖状態である糖尿病病態下では、糖尿病による収縮亢進に加えて高血糖による収縮増加が重複して存在し、これによる著しい収縮亢進現象は、糸球体への血流量低下など腎機能に影響を与えることが容易に予想された。さらにこれら収縮亢進現象のメカニズムについて検討を行った結果、糖尿病病態下における ILA 収縮亢進には、平滑筋細胞中の protein kinase C (PKC) の過剰発現が関与し、糖濃度依存的な収縮亢進現象には、rho-rho kinase を介する経路の過剰亢進が原因となっていることを明らかとした。糖尿病病態下の腎血管機能障害を、糖尿病性、糖濃度依存性の2つの因子により見いだしたのは本研究が初めてである。
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