本研究ではPTFEを素材とした人工血管と最近開発された人工血管(グラジル)を用いて移植後の血管内膜肥厚特徴を比較検討した。 従来の多孔体人工血管(PTFE)移植一ヶ月後では人工血管内腔のすべての部位においては顕著な内膜肥厚が認められなかった。この時の人工血管素材の壁を染色して見たところ、外膜側からの線維芽細胞の浸潤が素材の半分程度しか進んでいなかった。しかし、PTFE移植二ヶ月後では、動静脈吻合部において顕著な血管内膜肥厚が認められた。また、吻合部以外の中間部においても島状の血管内膜肥厚が認められ、この時の人工血管素材の壁では外膜側からの線維芽細胞の浸潤は素材全壁に渡って認められた。その四ヶ月後においては血管内膜肥厚がすべての部位においてより顕著となった。このようなことはPTFE移植後、血管外膜線維芽細胞の管腔内への浸潤が吻合部以外の血管内膜肥厚形成の最初段階および肥厚の進展において非常に重要な役割を果たしていることを示唆している。一方、中層無孔体の三層からなる人工血管(グラジル)では移植二ヶ月と四ヶ月後、動静吻合部以外のところにおいては血管内膜肥厚が全く見られなかった。つまり、グラシル中層無孔体による外膜側線維芽細胞の管腔内への遊走に対する遮断効果がグラジル移植後の吻合部以外の血管内膜肥厚の抑制効果につながったことになる。 このような事より、PTFE人工血管移植後の外膜からの線維芽細胞の浸潤が血管内膜肥厚の病態生理において非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、これまでに長期に渡って論争されてきた血管内膜肥厚における細胞由来の血液由来説、中膜由来説および外膜由来説といった三種類の仮説に対して外膜説を大きく支持する結果となっている。
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