従来の多孔体人工血管(PTFE)と中層無孔体の三層からなる人工血管(グラジル)の血管内膜肥厚の特徴について比較検討した結果、人工血管移植後、多孔体構造を持つPTFEでは外膜側からの間葉系細胞の浸潤度に比例して吻合部以外の部位における血管内膜肥厚強弱が認められたが、中層無孔体構造を持つグラジルでは吻合部以外の血管内膜肥厚が殆ど見られなかった。中層無孔体構造を有するグラジルでは血管外膜からの間葉系細胞の細胞遊走を完全に遮断しうることより、PTFE人工血管移植後の外膜からの線維芽細胞のような間葉系細胞の浸潤が血管内膜肥厚形成の病態生理において非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 これに引きつづき、このような間葉系細胞の浸潤においてキマーゼがどのような役割を果たすかを検討するために、キマーゼ徐放剤を移植時にPTFE周囲にコーディングし、その一ヶ月、二ヶ月および四ヶ月後のサンプルを採取した。そして、キマーゼ阻害薬による血管内膜肥厚抑制効果がアンジオテンシンII産生抑制に由来するか否かを検討するためにそれぞれACE阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬投与群を作製し、キマーゼ阻害薬と同じマッチポイントで人工血管を採取した。このようなことより、キマーゼの血管内膜肥厚形成における病態生理機序をアンジオテンシンII産生依存性と非依存性の割合をより明白に解明できるのではないかと考えている。現在、それぞれの結果について解析中である。
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