研究課題
前年度までの研究で、脳血管性認知症の動物モデルラットの空間記憶障害はPPARγのagonist作用を有するTelmisartanによって改善し、この改善作用はPPARγのantagonistであるGW9662の脳室内投与により拮抗されることを見いだした。そこで本年度は、対象をアルツハイマー病モデル動物に広げて検討を行った。その結果、(1)単回脳虚血とβ-アミロイド(Aβ)のオリゴマーを脳室内に連続微量注入して発現する空間記憶障害に対して、PPARγのagonist作用を有するTelmisartanの投与は全く改善作用を示さなかった。本モデルは、記憶障害は認められるが海馬にアポトーシスを伴わないことことからアルツハイマー病の初期モデルと考えることができる。(2)一方、単回脳虚血とAβの凝集体を脳室内に連続微量注入すると海馬にアポトーシスを伴う空間記憶障害が発現し、これは本病の中等度以上の動物モデルと考えられた。本モデルラットの空間記憶障害は、ドネペジルだけでなくTelmisartanの投与によっても有意に改善し、さらにこの改善作用はGW9662の脳室内投与により拮抗された。(3)本モデル動物において、Telmisartan投与による記憶障害改善時には海馬のアポトーシスも抑制されており、GW9662による行動上の拮抗作用発現時にはアポトーシス抑制作用は消失していた。これらのことから、アルツハイマー病の中等度モデルの空間記憶障害ならびに海馬アポトーシスの抑制にはPPARγ活性化を介する脳内炎症系反応の抑制が奏功することが考えられ、TelmisartanをはじめとするPPARγ agonist作用を有する薬剤が、中等度以上のアルツハイマー病の進行や記憶障害に有効である可能性が示唆された。
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Brain Research
巻: 1353 ページ: 125-132
Journal of Neuriscience Research
巻: 88 ページ: 1908-1917