マウスの胎盤形成過程では、胎生8.5日に漿膜と尿膜が接触した後、漿膜のGcm1発現細胞が融合してsyncytiotrophoblastになり、尿膜血管の陥入を誘導する。この現象をよく反映するin vitro系として、絨毛癌細胞株Bewoが知られている。Bewo細胞をforskolin処理すると、相互に融合してsyncytiotrophoblast様に分化するが、この際にGcm1の発現が上昇する。このとき、 1)リアルタイムRT-PCRにより、Gcm1だけでなく、Axin2およびBAMBI等の既知のWnt標的遺伝子も発現が上昇することを見出した。 2)Gcm1遺伝子のTCF4結合配列を用いたCHIP法により、Gcm1の発現上昇に相関してβ-catenin/TCF4シグナルの活性化が起こっていることを見出した。 3)B9L・β-cateninおよびTCF4をノックダウンすると、forskolin処理によるGcm1の発現上昇が阻害されることを見出した。 これらの知見から、Gcm1遺伝子がWntシグナルおよびB9L/TCF4/β-catenin複合体の直接のターゲットであることを示した。この結果により、B9Lによる胎盤形成制御の分子機構として強く示唆されている、「Wntシグナル→B9L/β-catenin/TCF4複合体→Gcm1発現誘導」というシグナル伝達経路の存在を立証することができた。
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