研究課題
研究実施計画では、平成22年度以降の重点計画として、Wnt/β-cateninシグナルの下流でGcm1により転写調節される遺伝子の同定をとりあげた。その候補として、Gcm1の下流因子syncytin-1および-2に着目してノックダウン実験およびノックアウトマウスを用いたin vivo解析を行い、以下の知見を得た。1)BeWO細胞において、B9L、β-CateninあるいはTCF4をノックダウンすると、Syncytini-1および-2の発現が抑制される。したがって、syncytin-1および-2はWnt/β-cateninシグナルの下流でGcm1により発現制御をうけていることが示された。2)syncytin-1および-2は細胞融合制御因子であることが知られている。実際、BeWo細胞において、B9L、β-cateninあるいはTCF4をノックダウンすると、細胞融合が抑制されることを見出した。3)B9Lノックアウトウスの胎盤において、syncytin-Bの発現が抑制されており、さらに電顕観察の結果、絨毛の栄養芽細胞の融合および分化が阻害されていることを見出した。以上の結果を総合すると、「Wnt/β-cateninシグナル→Gcm1→syncytin→細胞融合」という経路が浮かび上がる。これはWnt/β-cateninシグナルと細胞融合のリンクを世界に先駆けて示したことになる。したがって、Wnt/β-cateninシグナルが細胞融合の制御という新たな役割を介して、組織の修復・再生やがんの発生に関与することが示唆された。上記の結果の他、本研究計画でこれまでに得られた知見を総合して学術論文としてまとめ、海外の著明学術誌に投稿したところ、論文審査メンバーの高い評価を得て、論文発表をすることができた。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Nature Commun 2
巻: 548
DOI:10.1038/ncomms1551