生体分子のニトロ化反応は、炎症・酸化ストレスなどに伴って起こるユニークな生体修飾反応である。ごく最近、ニトロ化グアノシン誘導体が、細胞内の酸化ストレスセンサー蛋白質のチオール基と反応し、これを活性化して酸化ストレスのシグナル伝達に関わることが明らかとなった。本研究では、このような核酸分子のニトロ化を介したシグナル伝達の分子機構を明らかにすることを目的とした。ラットグリオーマC6細胞を、リポ多糖と炎症性サイトカインで刺激すると、ニトロ化グアノシン環状ヌクレオチドであるニトロcGMPの細胞内生成が顕著に亢進したが、活性酸素消去酵素(スーパーオキシドデイスムターゼ、カタラーゼ)の処理により、ニトロcGMPの生成が抑制された。同じく、NADPHオキシダーゼ2をsiENAによってノックダウンすると、ニトロcGMPの生成が抑制された。一方、ミトコンドリアの電子伝達複合体3をロテノンによって阻害して、スーパーオキシドの生成を増加させると、ニトロcGMPの生成も増加した。以上の結果より、炎症刺激した細胞内におけるニトロ化核酸の生成は、一酸化窒素(NO)の産生とともに、1、活性酸素の産生が必須であること、2、活性酸素の産生源として、NADPHオキシダーゼとミトコンドリアが重要であること、が明らヽかとなった。さらに、NADPHオキシダーゼからの過酸化水素がミトコンドリアからのスーパーオキシドの産生を亢進させていることも明らかとなった。ニトロcGMPは、このような活性酸素の過剰産生に対して抗酸化応答を誘導することで、細胞内のレドックス状態の恒常性を維持させる重要なシグナル分子として機能している可能性が示唆された。
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