研究概要 |
STAT3は、IL-6などのサイトカインや増殖因子刺激により活性化されるチロシンキナーゼによりリン酸化を受けることで活性化され、2量体形成の後、核に入り、DNA上の結合部位を認識し、主に転写の活性化に働く。細胞内シグナルを受けSTAT3により活性化される標的遺伝子群には、junB, socs3やc-fos遺伝子のように速やかに転写が活性化されるものとSAA1のように数時間後に発現のピークのある遺伝子が存在する。前者の転写制御機序の特徴を検討したところ、刺激前より、転写開始部位付近では、ピストンH3 K4のトリメチル化が起こっており、RNA Pol IIを含む転写開始複合体が形成されていた。このような遺伝子でのSTAT3の働きは、転写伸長複合体への転換と、転写開始活性をさらに増加させることであった。転写伸長活性は、CDK9阻害剤であるFlavopiridolやCDK9inhibitorIIにて阻害を受けたが、CDK9をノックダウンしても低下が見られなかった。IL-6刺激によっては、CDK9のキナーゼ活性の増強は見られなかったものの、トランスフェクションしたDSIFp160のリン酸化はIL-6刺激により増加し、この増加は、ERK系によるものではなく、CDK9そのものによるものでもないと考えられた。CDK9の役割を明らかにし、さらにCDK9抑制条件においても転写伸長を起こす活性を見いだす基盤となるアナログ阻害剤によりキナーゼ活性が制御しうるアナログ感受性CDK9変異体(AS-CDK9)を作製し得た。今後、DSIFキナーゼの同定、AS-CDK9再構成細胞株を用いたCDK9の機能解析に加え、STAT3複合体の解析と候補キナーゼの解析を加えていく。
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