研究概要 |
ファンコニ貧血(Fanconi Anemia, FA)はまれな小児遺伝性疾患で、骨髄不全、骨格異常、高発がん性が主な臨床症状である。細胞レベルでは、マイトマイシンC(MMC)やシスプラチンなどのDNA架橋剤にきわめて高感受性で、MMC処理後多数の染色体断裂を認めることが特徴的である。FAは単一の遺伝子欠損で引き起こされる疾患ではなく、現在15の相補群が見出されており、そのすべての原因遺伝子が同定されている。FA-A,-B,-C,-E,-F,-G,-L,-Mは核内で巨大なFAコア複合体を形成しており、この複合体依存的にFA-D2,FA-Iによって形成されるID複合体が活性化されモノユビキチン化される。FA-D2のモノユビキチン化は細胞のDNA架橋剤に対する耐性に必須である。2005年に同定されたFA-Jは以前に家族性乳がん原因遺伝子BRCA1と会合するDNAヘリケースとして同定されたBACH1/BRIP1と同一であった。FA-J細胞でFA-D2のモノユビキチン化は阻害されない。FA-JがDNA損傷部位においてFAコア複合体やID複合体などと協調して修復機能を発揮していることが示唆された。FA-Jは遺伝性非ポリポーシス大腸がん原因遺伝子MLH1とも会合していることが報告されており(Peng et al, EMBO J 26:3238-49(2007))、家族性乳がんにとどまらず、大腸がん、さらには他の散発性がん発症抑制にも深く関わっている可能性がある。本年度は、FA-J機能不全によるゲノム不安定性のメカニズムについてモデル細胞系による解析結果を論文として発表した(Kitao et al.Genes Cells 16:714-27(2011))。さらに大腸癌患者より得られた臨床検体を用いてFA-」発現解析を行い、がんにおけるFA-J発現と予後、5-FUによる術後化学療法の治療効果との関連についても論文として発表した(Nakanishi et al.Ann Surg Oncol in press)。また、5-FUの作用メカニズムについて、モデル細胞を用いた解析結果についても、論文として報告した(Fujinaka et al.DNA repair 11:247-58(2012))。
|