乳癌の大部分を占める非遺伝性散発性乳癌においてmRNA核外輸送分子GANPの発現低下が高頻度に見られる。この発現低下の病態における意義を明らかにする目的で以下三点を中心に研究を行った。(1)Wap-Creマウスとganp-floxedマウスを交配して乳腺特異的GANP欠損マウスを作成し、乳癌の自然発症が見られるかを引き続き観察した。50週齢を過ぎると約30%のマウスで乳癌発症を認め、GANPの発現低下が乳癌発症の原因となりうることをマウスモデルで初めて示した。(2)p53 mRNA核外輸送の解析を行ったが、ganpヘテロ欠損胎仔線維芽細胞(MEF)を用いた解析では確かにp53 mRNAの核外輸送が障害されタンパク量も激減する。しかしこのMEFはSV40で不死化しており恒常的にp53が発現しているため、この現象が普遍性を持つのかを明確にする必要がある。様々なヒト細胞株を用いてGANPをノックダウンするとp53タンパク量が増加し、DNA損傷応答が誘導されるため、ヒト細胞株においてGANPがp53 mRNA核外輸送に関与するかどうかの結論はでていない。(3)GANPのmRNA核外輸送機構をさらに解析するために、結合分子Pcid2/Thp1を同定し、B細胞特異的Pcid2ノックアウトマウスの解析を行った。このマウスでは成熟B細胞数が激減し、、Pcid2がB細胞の生存維持に必須であることが示された。この分子機構を明らかにするために、HeLa細胞でPcid2ノックダウンを行ったところ、M期チェックポイント分子MAD2の発現低下を認め、この低下はMAD2 mRNAの核外輸送が障害されていた。GanpあるいはPcid2ノックアウトマウスの表現型が異なること、遺伝子ノックダウンにより輸送に関わるmRNAが異なることより、哺乳動物におけるmRNA核外輸送には選択的機構が働いていることが示唆された。
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