増殖因子受容体ErbBはがんの増殖に深く関与しており、その活性化の機構を明らかにすることは臨床的にも非常に重要である。これまでの研究で、ErbBの2量体形成および活性化にはN型糖鎖が重要な役割を果たしていることが分かってきた。特に、ErbB3はその細胞外ドメイン中のAsn418に結合する糖鎖を欠損させることによってリガンド非依存性の2量体形成がみられ、増殖シグナルの活性化が観察されることより、特定の糖鎖による構造および機能制御メカニズムの存在が示唆されている。 本研究は、N型糖鎖によるErbBの構造制御および機能制御メカニズムを明らかにすることを目的とする。ErbB3の細胞外ドメイン(sErbB3)を精製し、ErbB3導入CHO細胞に添加したところ、heregulinによるErkシグナルやPI3Kシグナルの抑制が観察され、この抑制効果は糖鎖欠損変異体で著明に亢進していることがわかった。MS解析によってAsn418に結合する糖鎖構造を同定し、この現象がどのような糖鎖に起因するかを決定した。CHO細胞では主に9糖よりなる複合型糖鎖およびそれにシアル酸がついたもの、Lec3細胞ではほとんどが7糖よりなる高マンノース型糖鎖であった。このシグナル抑制効果は、sErbBがheregulinと結合するためか、もしくは細胞膜ErbB3とヘテロダイマーを形成するためかについて現在検討中である。また糖鎖欠損による構造の違いを明らかにするため、X線小角散乱や蛍光プローブを用いた表面疎水性変化の観察を試みたが、野生型と糖鎖欠損変異体の構造変化は観察できなかった。トリプトファンの蛍光を観察することによってリガンド結合時の構造変化を観察できることを見出したので、現在その系を用いた解析を行っている。
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