昨年度までの研究により、Tysnd1の欠損は、超長鎖脂肪酸のβ-酸化活性が低下する事を証明した。また、Tysnd1欠損マウスは雄性不妊であり、精子形態の異常がみられた。その原因として精巣中のプラスマローゲンの一部の分子種の含有量の低下が見られ、このことが形態異常に少なからず影響があると思われた。さらに、Tysnd1の基質となる酵素の同定をさらに行い、これまでに証明した4つの酵素以外にもTysnd1によつて切断される酵素を同定した。 本年度は、ペルオキシソームのもう一つの重要な代謝経路である、フィタン酸の代謝機能の測定を行い、Tysnd1の欠損は、フィタン酸の代謝を著しく低下させる事を明らかにした。さらに、上記のような、超長鎖脂肪酸の代謝、プラスマローゲン合成、フィタン酸の代謝の3つのペルオキシソームの代謝機能がなぜTysndlの欠損によって起こったのかについての分子メカニズムについて解析を行った。ペルオキシソームで働くタンパク質は、ペルオキシソーム局在化シグナル(PTS)を持ち、PTSの認識によってペルオキシソームに運搬される。Tysnd1は、N末端にあるPTS2配列を切り取る事から、Tysnd1によるPTS2配列の切り取りは、ペルオキシソームタンパク質のペルオキシソームへの局在に関係があるのではないかと考えた。そこで、Tysnd1欠損マウスの肝臓を用いてTysnd1の基質である酵素群の細胞内局在を観察したところ、PTS2をもつペルオキシソームタンパク質はペルオキシソームに局在する割合が野生型に比べて低く、ペルオキシソーム以外にも局在していた。つまり、Tysnd1によるPTS2の切断はペルオキシソームタンパク質のペルオキシソームへの局在化に重要であり、Tysnd1の欠損によるペルオキシソームタンパク質の細胞内局在の異常が脂質代謝機能の低下につながる事を明らかにした。
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