現在、カップルの10組に1組は不妊症に悩んでおり、また、全妊娠の1-2%は流産を繰り返す不育症である。それらの原因にはさまざまな因子の関与が考えられているが、そのうちの1つにカップルのどちらかが染色体転座を有していることが原因となる場合がある。染色体転座保因者は配偶子形成時に転座染色体や関連した染色体の不分離を生じることがあり、そのために流産になる。ところが、それとは別に転座染色体とは無関係の染色体の不分離を引き起こしているという報告がされている。この現象をInterchromosomal effect(ICE)と呼んでいるが、ICEの存在を否定する説もあり、議論が分かれている。そこで本研究では、減数分裂を試験管内でおこすことができる出芽酵母を用いた転座モデルにより、ICEの存在の有無を調べることを目的としている。 本年度は、まず、さまざまな切断点をもった転座酵母モデルを効率よく作製することを目的として、ヒトの生殖細胞系列の染色体転座を高頻度に生じるt(11;22)に着目した。そこでその転座切断点にあるpalindromic AT rich repeat(PATRR)配列の複数のタイプを導入した酵母モデルを作製した。その結果、実際にそのうちの完全なパリンドローム配列に近いPATRRを持つ酵母では効率よく染色体転座が生じていることをPCRにより確認した。さらに、均衡型染色体転座を生じたクローンを単離するために、スプライシングを利用した系や、One-hybridの系を応用した単離システムの確立に向け現在進行中である。またクローンが得られた後には、減数分裂後の染色体の分離状態の観察を行い、評価する予定である。そのためのFISHによる検出系の構築も進めている。
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