均衡型染色体転座保因者は、不妊や習慣流産あるいは転座染色体に関連した不均衡型染色体をもった児を出産することがあるなど、生殖の問題を生じることがある。これは、転座染色体の存在によって通常の相同染色体対合が阻害され、その結果関連した染色体の不分離を誘発することが原因である。しかし、転座染色体とは全く無関係な染色体の数の異常の児の出生も報告されており、この現象はInterchromosomal effect (ICE)として知られている。ところが、ICEについては否定する報告もあり、その存在については未だに解明されていない。そこで本研究では、減数分裂を試験管内で進行させることのできる出芽酵母を用いた転座モデルにより、ICEの存在の有無を調べ、そのメカニズムを解明することを目的としている。 減数分裂時の染色体の不分離は、染色体数の異常をおこし、酵母の場合、胞子形成に影響を及ぼすことが考えられる。本年度は、研究代表者らが構築したヒトt(11;22)転座モデル酵母を用いて、ICEの有無を胞子形成能を指標に観察した。まず、ヒトにおける転座誘発配列、すなわちPATRR配列を導入したモデル酵母を作製し、窒素源を枯渇させることにより減数分裂を誘導してその胞子形成能の解析をおこなった。その結果、通常の条件での誘導では胞子形成能に変化は見られなかった。次に、温度、培地、タイミングなどの胞子形成に影響を与える複数の条件を変化させ観察をおこなったが、その結果においても、顕著な変化は見いだされなかった。以上の結果から、ICEが誘導されるには、単なる転座染色体の存在だけではなく、その他の未知の因子が関与する可能性が考えられた。
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