研究概要 |
我々は2008年に、マウス肺癌及び線維肉腫由来の転移能の異なる細胞株を用いて、ミトコンドリアDNA(mtDNA)にコードされるNADH dehydrogenase subunit 6(ND6)遺伝子に生じた呼吸鎖複合体I活性低下の原因となる病因性変異が転移能を亢進することを明らかにした。そこで今年度は、ヒト癌においても複合体I活性の低下を引き起こす可能性のあるND遺伝子変異と転移との間に何らかの関連があるか否かを、ヒト肺癌及び大腸癌の原発巣及び転移巣を用いて検討した。検体として肺癌(原発巣45例、脳転移巣36例)、大腸癌(原発巣22例、諸臓器転移巣11例)の凍結検体から調製したDNAを用いて、ND遺伝子のうち、ND1,ND2,ND3,ND4L ND6の塩基配列を決定し、非同義ミスセンス変異やナンセンス変異の出現頻度が原発巣と転移巣間で異なるか否かを比較した。その結果、これらND遺伝子に見られるアミノ酸変異の指標であるGrantham valueが50以上のミスセンス変異、ミトコンドリア病と何らかの関連が報告されている変異やナンセンス変異のトータルの出現頻度が、原発巣に比べ、転移巣で有意に高いことが判った。これらの結果から、呼吸鎖複合体I活性の低下を引き起こす可能性のあるND遺伝子の変異はヒト癌においても転移能に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
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