研究概要 |
昨年度は、ヒト肺癌及び大腸癌の原発巣と転移巣の凍結検体から抽出したゲノムDNAを用い、ミトコンドリアDNA(mtDNA)にコードされる呼吸鎖複合体I関連遺伝子ND1,ND2,ND3,ND4L,ND6の塩基配列を解析した。今年度はmtDNAにコードされる、他の呼吸鎖複合体I,III,IV,V関連遺伝子の塩基配列の検討を行った。その結果、ND遺伝子にみられるアミノ酸変異指標・Grantham値が50以上のミスセンス変異やミトコンドリア病との関連が報告されている変異、ナンセンス変異の総合的な出現頻度が、原発巣に比べ転移巣で有意に高いことを明らかにした。更に大腸癌検体においてmtDNA変異の見られた症例のパラフィンブロックからDNAを抽出し、癌部と非癌部におけるND遺伝子変異の比較を行った。その結果、解析可能であった6例で、癌部において凍結検体と同様の変異を見出したが、非癌部では変異を認めなかった。即ち、凍結検体におけるND遺伝子の変異は癌部の体細胞mtDNA変異を反映しており、呼吸鎖複合体I活性の低下を引き起こす可能性のあるND遺伝子の原発巣での変異が、ヒト癌で転移能に影響があることが更に強く示唆された。 また、神経膠芽腫では髄液播種を来す症例と来さない症例があり、予後に深く関与する。同疾患の播種の様式は、原発腫瘍巣細胞断端からの遊離・髄液中での生存・着床など、他の癌の転移様式と類似した点があげられる。そこで経過観察中早期に播種を来した8例と長期観察中播種を来さなかった9例についてND1,ND3,ND4L,ND6の塩基配列を解析した。その結果、播種を来した8例中1例、播種を来さなかった9例中4例でGrantham値50以上のミスセンス変異が認められた。 以上の解析から、ND遺伝子変異の神経膠芽腫における易播種性との関係は、肺癌・大腸癌の転移能への影響とは異なることが考えられた。
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