ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病因性変異による呼吸鎖活性の低下と活性酸素種(ROS)の産生ががん細胞株の転移能と密接に関連するという結果、およびヒト腫瘍の転移巣におけるmtDNA変異頻度が原発巣と比較して有意に高いという結果、並びに非染色・非侵襲で一個の生細胞内の分子情報を取得できる時空間的分解ラマン分光を使うことで、1602cm-1のラマンバンドがミトコンドリアの呼吸鎖活性と強く関連を持つという報告を基盤にして、病因性mtDNA変異を生細胞レベルでの呼吸鎖活性の低下とROS産生で検出する簡便な測定方法としてのラマン分光法の有用性を検討した(島根大学と東京大学との共同研究)。低転移性マウス肺がん由来P29細胞と病因性mtDNA変異(G13997A)を有する高転移性A11細胞由来のサイブリッド、P29mtP29およびA11mtA11細胞を用いた。A11mtA11細胞では呼吸鎖活性の低下にともなうATP産生の低下、ROS産生の亢進、乳酸産生の亢進を確認した。ミトコンドリア由来と思われるラマンスペクトルおよび細胞全体の代表的なラマンイメージ測定を両サイブリッドで行なった。その結果、1602cm-1のラマンバンドに加えて、フェニルアラニン(およその蛋白質の分布)、シトクロムc還元型(ミトコンドリアの分布)、およびタンパク質や核酸に含まれる1655cm-1(高波数だと主に核酸、低波数側だとタンパク質のαhelixを検出)のバンドのピークにおいて、両者に明瞭な差を認めなかった。病因性mtDNA変異による呼吸鎖活性とROS産生を顕微ラマン分光法で測定し転移との関連を示せれば臨床的にも重要になると思われ、今後さらなる詳細な検討が必要と思われる。
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