研究課題
アルツハイマー病(AD)は加齢に伴い急増する神経変性疾患であり、その予防法・治療法の開発は喫緊の社会的課題となっている。本研究の目的は、最近申請者らが見出したAD脳の海馬で生じている神経毒キノリン酸産生を伴うトリプトファン代謝異常(インドールアミン酸素添加酵素IDO誘導)、特に老人斑に集積するミクログリアによる本代謝異常の分子機構を解明し、ADの予防法や治療法の開発に資する新たな科学的・分子的基盤を提供することにある。これまでに申請者らは、ミクログリア(Mg)のモデル細胞であるTHP-1細胞や末梢血単球を使用し、本代謝異常(IDO誘導)が、老人斑の主成分であるAβ1-42による慢性的刺激と脳内で増加した炎症性サイトカインIFN-γによる刺激の相乗的作用によって惹起されることを明らかにしている。本研究では(1)Mg細胞膜上に存在するAβ1-42受容体の同定とその分子的性質の解明と、(2)IFN-γとの相乗的IDO誘導を惹起するAβ1-42受容体の細胞内シグナル伝達機構の解明行なう。Mgと同じマクロファージ系のTHP-1細胞がAβ1-42とIFN-γとの相乗作用によりIDOが強く誘導される。従って、THP-1細胞膜上にAβ1-42を特異的に認識する受容体が存在すると考えられる。平成22年度に主に単純なオリゴマーを産生するとされるAβ1-42ΔE22を使用して検討したが、IFN-γとはIDO誘導において相乗作用を示さないことが判明した。一方、最近ヒトAD脳において老人斑を形成し神経毒性の本体は、Aβ1-42ではなく修飾されたプログルタミルAβ3-42(pAβ3-42)であることが報告された。平成23年度は、pAβ3-42とIFN-γによるIDO誘導の相乗作用をTHP-1細胞で確認し、しかもその相乗作用はAβ1-42よりかなり低濃度で生じることを明らかにした。これを受けて、THP-1細胞膜上に存在すると想定されるpAβ3-42受容体を、1)リガンド-受容体複合体を免疫沈降、2)SDS-PAGE分離、3)LS-MSによる同定で試みたが、免疫沈降で特異的なバンドを確認できなかった。
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