研究概要 |
【目的】性決定遺伝子Sryは胎子期に発現し,精巣分化を誘導する雄性化のスイッチジーンとして知られている.しかし,近年成獣雄マウスにおいて中脳黒質部でのSryの発現(胎子性腺以外の局在)とその感覚運動機能への関与(性決定以外の機能)が報告されたことから,既報の部位以外でも成獣期にこの遺伝子が機能的に発現している可能性が考えられたため,成獣雄マウスの全身臓器におけるSryの発現の有無を明らかとすることを目的とした. 【材料と方法】成獣期雄マウスの全身主要臓器31箇所についてSry遺伝子の網羅的発現解析を行った.次いで,mRNAとゲノムDNA由来の増幅を区別するために,転写領域と非転写領域の増幅を比較する絶対定量性リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析と抗Sry抗体と抗Sox9抗体を用いた免疫組織学的解析を行った. 【結果】小脳・延髄,甲状腺,腹部皮膚(有毛部)においてSry発現が確認された.精査したところ,Y染色体上の繰り返し配列であるYB-10の増幅がDNase処理後もみられたため,シングルエクソンであるSry遺伝子の発現解析に絶対定量性リアルタイムPCR法を用いて,mRNAとゲノムDNA由来の発現量を測定したところ,胎子性腺,小脳・延髄で有意な差が,腹部皮膚(有毛部)で有意に近い差がみられた.また,免疫染色によって小脳・延髄のプルキンエ細胞,大脳皮質の分子顆粒層と大脳海馬の錐体細胞層の神経細胞に抗Sry抗体陽性反応が認められた. 【結論】小脳・延髄においてSry遺伝子が発現していることが示唆された.また,免疫組織学的解析により皮膚や大脳においてSryタンパク質が存在している可能性が推察されたことから,これまで報告されている組織以外にもSry遺伝子が発現していることが考えられた.このことから,成獣期の遺伝子発現や機能における性差にSryが関与している可能性が推察された.
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