研究課題
「ありふれた疾患(common disease)」の一つである統合失調症を対象とした進化医学的解析を行った。疾患感受性アレルの集団内での維持機構を解明するために,「統合失調症感受性遺伝子アレルが平衡選択で維持されている」という仮説を立て、全変異検出と頻度スペクトラム法(Tajima's D(以下TD)による中立性の検定と、合体シミュレーションによる系図解析を行った。統合失調症感受性遺伝子として、BDNF、SLC18A1、COMT、DRD1、DRD2、DRD4について、有意な関連が報告されたSNPの周辺領域各7kbおよび上流領域5kbを対象に、ヒト72検体、チンパンジー24検体の全変異検出をダイレクトシークエンスにより行った。その結果、DRD2において統合失調症との強い関連を示すSNPs(rs6275,rs6277)周辺において、ヒト特異的なかつヒト3大集団に共通な平衡淘汰を検出した(TD=+2.15-+2.71)。また、古くから統合失調症との関連が示唆されてきたCOMTの非同義SNP、rs4680(Val158Met)周辺領域において、ヨーロッパ人で有意な正のTDが観察され(+2.10)、日本人集団とアフリカ系アメリカ人集団においても有意ではないものの同様の傾向(TD=+1.46(日本人),TD=+1.75(アフリカ系アメリカ人))が見られた。COMTのrs4680(Val158Met)周辺について、合体シミュレーションによりこの領域を構成するハプロタイプの年代測定を行ったところ、この領域のTMRCAはヨーロッパ人とアフリカ系アメリカ人では非常に古く、100万年を越えていた。また、得られた遺伝子系図は、ヨーロッパ人とアジア人においては平衡淘汰を強く支持していた。統合失調症感受性多型の存在する領域で検出された平衡淘汰のターゲットは、統合失調症及び高次脳機能に関連する表現型であった可能性が高いと考えられ、統合失調症感受性多型の平衡選択仮説を部分的に証明できた。
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Molecular Biology and Evolution
巻: (印刷中)
PMID:22319155
American Journal of Medical Genetics Part B : Neuropsychiatric Genetics
巻: 156 ページ: 850-858
PMID:21898905