本研究の目的は、胃癌組織においてゲノム(遺伝子)のコピー数と発現との関係を調べ、ゲノムコピー数に非依存性に変化する遺伝子発現が、どのようにエピジェネティックに調節されているのかを明らかにすることである。初年度は、未分化型胃癌の組織像の多様性に関係していると考えられるインテグリンとカドヘリンを中心に蛋白発現の側面でのデータを収集するとともに、次年度に向けてゲノムコピー数解析やqMSPの実験を開始した。(1)インテグリンは間質細胞にも発現するものがあるので、癌細胞での発現を評価するためにはサイトケラチンとインテグリンの二重染色と、結果の定量的解析が必要であった。方法論を工夫し、癌細胞では浸潤とともに上皮性インテグリンサブユニット(α2、α3、α6、β4)を失い、間葉性インテグリンサブユニット(α1、α5)の発現が亢進することを明らかにした。これは癌の上皮間葉転換(EMT)を反映していると考えられる。またこのEMシフト以外に、β1からαVグループへの脱分化シフトも早期癌より進行癌でより顕著に見られた。(2)カドヘリンは、Eカドヘリン、Pカドヘリン、LIカドヘリンを調べた。早期癌より進行癌で発現低下が顕著なのは、PカドヘリンとEカドヘリンの細胞外ドメインであった。(3)ゲノムマイクロアレイ解析にむけて、レーザ・マイクロダイセクションで採取した未分化型胃癌細胞のDNA抽出を進めている。(4)qMSPによるメチル化解析をhMLH1のプロモータ領域に対して行い、hMLH1の蛋白発現が低下していても、プロモータのメチル化が無いこともしばしばあること、逆にhMLH1の蛋白発現があるのに、プロモータメチル化が部分的に見られることもあることが分かった。これまでhMLH1発現とマイクロサテライト不安定性を調べてきた材料で、hMLH1のコピー数との対比を次年度に行なう予定である。
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