研究概要 |
多発性骨髄腫は中~高年齢で発症し、腫瘍随伴症候群、骨融解による甚大な苦痛(病的骨折の多発)や腎不全など患者さんとその御家族に長期間強いることのある難治性血液悪性腫瘍の一つである。高齢化社会を迎える意味でも骨髄腫発生メカニズム、その阻害方法の検討をがんと間質の相互作用の視点より解明することの意義は大きい。本研究で多発性骨髄腫の骨髄微小環境でのNotch,Notch ligands,ユビキチン連結酵素の発現の差を検討した結果、それらの発現に影響を及ぼす新規酸素センサー分子、ogfod-1の同定に至った。また新たにTMEM207と称される機能不明であった一回膜貫通タンパク質が、リガンド依存性Notch活性化の下流に位置する分子であることを見出した。骨髄腫はmyeloma nicheに依存して増殖することが知られており、がん細胞と間質細胞との相互作用が、骨髄腫増殖に必須とされる。したがって、本研究で明らかになった新規膜たんぱく質TMEM207の阻害方法を開発できれば骨髄腫の治療へ応用できる可能性がある。さらにNotchシグナル活性化が、乳癌、卵巣癌、唾液腺癌、肺癌、皮膚癌、また脳腫瘍などの種々の癌細胞で報告されており、特にTMEM207は悪性度の高い胃印環細胞癌で過剰発現していることが明らかになり、また、その粘液産生性と関係していることが示唆され、本研究の知見が、様々ながん細胞とその間質との相互作用の理解にもつながる、あるいは本研究の知見が応用できると考えられる。さらに本研究で明らかにできた癌間質分子ネットワークに対する標的薬剤の開発も萌芽している。
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