研究概要 |
本年度は前年度までの知見を踏まえ、肺癌細胞におけるTTF-1 variant 1およびvariant 2の発現態度、TTF-1の発現に関わる可能性のあるホメオボックス遺伝子の探索を行った。その結果、TTF-1の発現が見られる腺癌株におけるTTF-1の発現量はvariant 1>variant 2であるのに対し、小細胞癌株ではvariant 1<variant 2であることが判明した。前年度のTTF-1遺伝子プロモーター解析およびそのプロモーター変異解析により、ホメオボックス蛋白結合領域がTTF-1発現に重要であることが判明したため、肺癌細胞におけるFOX、HOX、LHX等のホメオボックス蛋白の発現状態について検索を進めたところ、TTF-1発現の見られる腺癌および小細胞癌株でFOXA1/2の発現が高いこと、小細胞癌株ではLHX2,LHX6,0CT7の発現が高いこと、PAX2/4/5/8,LHX1/3/4/5/8/9,FOXB3,GATA6,FOXD3の発現とTTF-1発現との間に正の相関性はないことが明らかになった。またTTF-1を発現していない肺癌細胞株にFOXA1/2遺伝子を発現させることによりTTF-1の発現が誘導されることが判明した。しかし同時に、constitutiveなTTF-1発現が見られる腺癌株や小細胞癌株のTTF-1発現量に比較すると、FOXA1/2により誘導されるTTF-1発現量ははるかに少なかった。TTF-1プロモーターにおけるエピジェネティック変化についても継続して検討を行ったが、TTF-1発現へのエピジェネティックな要因の関与は少ないことが判明した。またドキシサイクリン存在下にTTF-1を発現する正常気道上皮細胞株および非小細胞癌細胞株を作成し、TTF-1遺伝子発現変動に伴い発現変動する分子について検索した。その結果、TTF-1は神経内分泌細胞特異的basic helix-loop-helix型転写因子ASCL1,NeuroDの発現の発現には関与していないことが明らかになった。これらの結果より、肺癌細胞におけるTTF-1発現はFOXA1/2を含む複数のホメオボックス蛋白により制御されていること、少なくともTTF-1単独では神経内分泌形質の誘導は起こらないことが示唆された。
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