本年度は、昨年度見出したテロメア短縮病変特異的な新規遺伝子異常であるCR-1 pseudogeneであるTDGF-2の遺伝子欠損について、その機能を中心に検討を行った。TDGF-2遺伝子欠損部位はCR-1や同じくintronless pseudogeneであるTDGF-3のcoding regionの全長を含む領域を欠損しており、CR-1やTDGF-3の機能との比較は困難と考えられた。また、TDGF-2近傍の遺伝子の検索を行ったが、遺伝子欠損範囲は小範囲であり、他に遺伝子は含まれてはいなかった。欠損部位のcoding regionのアミノ酸配列を検討すると、CR-1とTDGF-2では、同じ領域に10数個のアミノ酸変異がありタンパク結合ドメインを含んでいる。このため、TDGF-2はCR-1と異なる機能を有する、あるいは、CR-1と競合阻害作用を有する可能性が考えられた。このためタンパク結合ドメインを含む約100アミノ酸領域をCR-1、TDGF-2について作成し、Noda1との結合性を検討した。すると、TDGF-2はNodalとの結合性を欠いており、CR-1とNodalとの結合性を部分的に阻害することが明らかになった。このことから、TDGF-2の欠損はCR-1-Nodal結合を促進し、stemnessの亢進を招くことが示唆された。これは、腸上皮化生、とくに、dycplastic metaplasiaにおいてstem cell hyperplasiaが生じているという観察によく一致する。TDGF-2遺伝子欠損は腸上皮化生由来胃発がんの重要な早期遺伝子変化と見なされた。
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