研究概要 |
組織細胞形態と細胞遺伝学的異常を同時にホルマリン固定パラフィン包埋切片上で解析可能な手法であるdual-color Chromogenic In Situ Hybridization(CISH)法の骨軟部腫瘍診断への応用を目的として次の検討を行った。(1)染色体相互転座、融合遺伝子を有する肉腫への応用に関しては、粘液型脂肪肉腫3例でのCHOP遺伝子再構成、胞巣型軟部肉腫7例でのTFE3遺伝子再構成、明細胞肉腫1例でのEWS遺伝子再構成の検出を試み、全例で遺伝子再構成を示す当該遺伝子の解離シグナルの検出が可能であった。(2)遺伝子増幅を有する肉腫への応用に関しては、高分化型脂肪肉腫(WLPS)及びその約10%の高悪性度転化で生じる脱分化型脂肪肉腫(DLPS)の両者にみられるMDM2の遺伝子増幅のMDM2-p53経路の制御への関与を知ることを目的として、p53特異性の高い発現制御を受けるmicroRNA(miR)-34aの相対的発現量を定量的RT-PCR法を用いて検索し、p53の機能状態を推定した。その結果、WLPS(n=5),DLPS(n=5)におけるmiR-34aの発現はMDM2遺伝子増幅のない脂肪腫(n=6),正常脂肪組織(n=3)よりも有意に上昇していた。一方、WLPSとDLPSの脱分化巣の発現レベルには有意な差がなかった。一般には遺伝子増幅の結果、過剰発現したMDM2がp53の分解を促進し、p53の機能が抑制されると信じられているが、本研究の結果はMDM遺伝子増幅がp53の機能を必ずしも抑制していないことを示しており、脂肪性腫瘍のMDM2-p53経路の意義を考える上で重要な知見である。
|