研究概要 |
ATBF1はDNA結合因子で、分化誘導に必要な遺伝子群を活性化し、細胞周期を停止させるシグナル系を活性化させる機能を有する。滑膜肉腫,悪性中皮腫の症例及びそれらの細胞株を用いてATBF1の細胞内局在を解析した。ATBF1抗体の検討では、12例の滑膜肉腫、悪性中皮腫21例、中皮細胞の反応性の増生を示す肺気腫症例40例、肺腺癌28例を検索した。滑膜肉腫では5例が陰性であったが、7例は細胞質に陽性をみた。悪性中皮腫は4例が陰性、4例が細胞質のみ陽性、残り13例は細胞質、核ともに陽性を示した。反応性中皮細胞では27例が陰性、細胞質のみ陽性が2例、核のみ陽性が1例、細胞質、核ともに陽性が10例であった。肺腺癌は6例が陰性、細胞質のみが19例、細胞質、核ともに陽性が3例にみられた。悪性中皮腫の症例では原発部位と思われる胸膜の表層では核と細胞質に陽性所見を呈するが,間質への浸潤部では核の陽性細胞の数が減少し,細胞質に陽性の細胞が優位となる傾向が見られた。これらの結果は核タンパク質であるATBF1が、良性腫瘍から低悪性度腫瘍,あるいはin Situ的な病変に高頻度の発現を示し、ATBF1の本来有しているがん抑制遺伝子としての働きを示しているものと思われた。一方,滑膜肉腫や浸潤性を示す悪性中皮腫の腫瘍細胞ではがん抑制遺伝子としての働きを失い,細胞質に強い発現が生じたものと思われる。多数の骨軟部腫瘍症例、培養細胞株細胞を検討しているが、高悪性度腫瘍では明らかにATBF1の細胞質内局在が観察される。反応性病変、良性~低悪性度腫瘍では核に局在をみる症例が多い。ATBF1抗体により、癌細胞の悪性度診断を早期に行うことができる可能性を示唆している。
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