研究概要 |
2009年末に20例の胃原発T細胞リンパ腫のまとめを行った。胃T細胞リンパ腫の特徴は、腸管症関連T細胞リンパ腫(EATL)とは異なる臨床像、細胞形質を有していることが分かった。EBV感染が認められず、東アジア型CagA遺伝子は10例中3例に認めるのみであった。現在、小腸のEATL24例の臨床病理的検討を行い、その臨床病理、遺伝子学的背景を明らかにした。日本のEATLは、欧米に認められるCoeliac病を基礎疾患としたEATLと全く異なる組織型、細胞形質を有することが確認できた。HLAの検討では、欧米例にみられるDQB1*02の異常はなく、CGH法での染色体の検討でも、Coeliac病、欧米EATLにみられる9q33-35の増幅がなく、8q2(c-Myc),Xp,Xqの領域の増幅が高率にみられた。また、EBVの感染が6例(25%)であることを確認した。 日本人の胃がんにおいては、東アジア型H.pylori CagA, VacA遺伝子が高率に出現し、その刺激がSrc homology 2 domain-containing tyrosine phosphatase, SHP2)の高発現を引き起こし、上皮細胞を増殖させ腫瘍につながる機序がある。 胃悪性B細胞リンパ腫に関しては、血清でのH.pylori菌の検討は多く行われているが、腫瘍組織においての解析はごくわずかである。まず、MALTリンパ腫、びまん性大細胞性リンパ腫に分けて、その腫瘍組織において、H.pyloriのCagA遺伝子、VacA遺伝子の同定を行い、その陽性率を確かめる。また、H.pylori菌,東アジア型CagAに対する単クロン性抗体(TMDU-mAb,a-EAS Ab)を用い、実際の腫瘍組織においてH.pylori菌の分布、またリン酸化SHP2が腫瘍細胞にどのような状態で出現するかを確認する。この機序に関して、胃がんの陽性例との比較を行い、2疾患でいかに異なるかを確認する。次に、胃及び腸原発T細胞リンパ腫の症例に関して、H.pylori菌がいかに関与するかを同様に行い、上述の機序が腫瘍細胞に働いているかを確認したい。特に腸T細胞リンパ腫の背景には、小腸炎がある可能性が有り、その1つの原因としてH.pylori菌が関与しているか否か確認を試みる。
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